相続人が刑務所に収監されているのですが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所にこられて相談を受けました。

内容はお父さんが亡くなられたそうで、不動産の相続登記をしてもらいたいとのことでした。単純な相続登記のご依頼かと思い、よく話を聞いてみますと、亡くなられたのはAさんのお父さんで、お母さんは既に他界していますが、Aさんには弟さんが2人いるそうです。

つまり、お父さんの相続人はAさんと次男のXさん、三男のYさんということになります。ここまでは、普通の相続登記の相談ですが、実はXさん及びYさんは2人とも刑務所に収監されており、刑期が満了するまであと10年ぐらいあるそうです。

相続財産は不動産と預貯金があり、兄弟3人の間では、均等に分けるという事で合意している、いわゆる遺産分割協議が成立しているとのことです。相続分は、不動産はAさんが相続して、預貯金の相続分は不動産価格を計算した結果を踏まえて3人で均等に相続するという内容です。

遺産分割協議は成立していても、当然遺産分割協議書は無く、その手続きから全て相続手続をしてほしいとの事でした。

  1. 遺産分割協議書を有効に成立させる要件というのはありますか?

    遺産分割協議書の有効要件というのは特に法定されているのもではありません。

    かといって、遺産分割協議書にお認め印しか押印されていなければ、その協議書の成立の信憑性が疑われてしまいます。遺産分割協議書は大切な財産の相続関係が書かれた書類で、各相続人の意思の表示として作成するものなので、慎重に作成しなければなりません。

    不動産登記に使用する遺産分割協議書には、通常相続人全員がご実印を押印し、印鑑証明書を添付しなければ、登記所で受け付けられません。

  2. 印鑑登録を行っていない場合や、幼児が相続人の場合はどうなりますか?

    印鑑登録(いわゆる実印登録)を行っていない場合には、住所地の市役所で印鑑登録を行っていただきます。ご本人が印鑑登録の手続きに行けば、当日中に登録が完了する場合が多いです。

    幼児が相続人の1人となっている場合には、幼児は父母の親権に服しますから、父母が幼児を代理して法律行為を行います。父母が幼児を代理して遺産分割協議を行う場合で、父母と幼児との利益が相反する場合には、幼児について特別代理人の選任請求を行わなければならず、幼児が2人とか3人いる場合には1人1人それぞれに特別代理人を選任しなければなりません。

    この件については事例集の「未成年の子供と遺産分割協議をしたいのですが・・・」に詳しく記してあります。

  3. 本件の在監中の者は、仮に印鑑登録はされていても印鑑証明書の発行はできません。どうすればよいでしょうか?

    この場合は、不動産登記先例で次のようになっています。

    「刑務所在監者が登記義務者として印鑑証明書を提出できない場合には、本人の拇印である旨を刑務所長又は刑務支所長が奥書証明した委任状を添付すべきである。」
    (昭和39年2月27日民事甲第423号)

    この先例は、登記義務者となって登記申請する場合のものですが、遺産分割の場合には、遺産分割協議書に本人の拇印を押捺してもらい、刑務所長に本人の拇印に相違ない旨の奥書証明をもらう事になります。

  4. 銀行預貯金等の相続手続はどうのようになりますか?

    銀行預貯金、株式等の有価証券の場合には、各金融機関に内規があるようなので、相続手続を行う各金融機関に問い合わせを行いながら進めなければなりません。

    しかし、通常はどの金融機関でも同じような手続きになるものと思われます。

総括

今回のAさんの相続では、XさんYさん共に在監している場所は別々でしたが、面会に行けない距離でもなかったので、2人とも面会に行きました。そしてご本人確認と意思確認、相続についての説明を行い書類を全て受領して無事相続手続が完了しました。

通常の相続手続きでは、相続人の方と電話やFAX、メール等で打ち合わせを行いそれほど時間を要せず手続きが終了しますが、在監者との連絡は手紙、郵便、電報等で、その内容のチェックも入るようです。私達専門職が行っても、とにかく手続きや書類の徴収に時間がかかり、連絡事項の伝達が一方通行のようになってしまいます。

この様な相続手続はやはり相続専門家が手続する方が何かと便利だと思われます。

相続手続でお困りの方は、当事務所までご相談下さい。