遺言執行に関する基礎知識

(1) 遺言の執行

①遺言書の検認および開封

遺言の執行とは、遺言の効力が生じた後に、遺言の内容を実現するべく必要な行為をすることをいいます。
遺言執行の準備手続として遺言書の検認及び開封の制度があり、公正証書遺言以外のすべての方式の遺言について必要とされています。
遺言書の検認や開封は、遺言書の成立と存在を明確にし、あるがままの遺言書の姿を確認するもので、遺言書の有効または無効を確認するのではなく、後日における遺言書の偽造や変造を防ぐ目的のために必要とされています。

(a)検認

遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は相続開始後に、遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。
検認の申立は、相続開始地の家庭裁判所に対して行います。
検認の申立があると、家庭裁判所は期日を定めて申立人を呼び出すことになりますが、相続人又はその代理人の立会は検認手続きの必要要件ではありません。

(b)遺言書の開封

封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会のもとで開封しなければならず、家庭裁判所以外において開封した場合には過科に処せられます。
封印のある遺言書とは、封に印が押捺されている遺言書をいい、単に封入されている遺言書は含まれません。
秘密証書遺言は封印することが要件とされていますから、常に開封手続が必要になります。
開封と検認とは同一の手続で行われるのが一般的であり、実務では、家庭裁判所は提出された戸籍謄本等によって相続人を確認したうえで、期日を定めて相続人に呼出状を発して検認、開封の告知をします。
呼出状によって相続人等に立会の機会を与えていますので、現実にその立会がなくとも開封手続は実施できます。

②遺言執行者

(a)遺言執行者とは

遺言執行者とは、相続開始後遺言者にかわって、遺言内容の実現を行う者のことをいいます。
遺言者は遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます。これを指定遺言執行者といいます。
指定遺言執行者が存在しないとき、または一度就職した遺言執行者が死亡その他の事由で存在しなくなったときには、家庭裁判所は利害関係人の請求によって遺言執行者を選任することができます。これを選定遺言執行者といいます。

(b)指定遺言執行者

ア)遺言執行者の指定の方法
遺言執行者の指定は必ず遺言によって行わなければなりません。
遺言の内容、遺言の作成された経緯など、総合的に遺言執行者の指定がなされていると判断できれば、必ずしも遺言執行者という文字を表示をする必要はありません。
遺言執行者指定の遺言が効力を生じても、指定された者には遺言執行者の就任について承諾するか拒否するかの自由があり、承諾した場合には遺言執行者となります。
遺言執行者へ指定された者が、遺言執行者への就任について回答を行わない場合には、相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めてその期間内に承認するか拒否するかの回答をするように催告することができ、期間内に回答がなかった場合には、遺言執行者への就任を承諾したものとみなされます。

イ)遺言執行者の資格
行為無能力者及び破産者は、遺言執行者となることができません。
相続人の廃除のように相続人たる資格と相容れないような内容の遺言以外については、相続人を遺言執行者とすることもできます。

(c)選定遺言執行者

遺言執行者が遺言で指定されていないとき、または指定された遺言執行者が死亡等によりいなくなった場合には、利害関係人の請求によって家庭裁判所で遺言執行者を選任することができます。
利害関係人とは、相続人、受遺者、これらの者の債権者または不在者財産管理人、相続債権者および相続財産管理人等をいいます。

(d)遺言執行者の職務

ア)財産目録の調製
遺言執行者は、相続財産の目録を調製して相続人に交付します。
相続人の請求があるときは、その立会のもとに財産目録を調製し、もしくは公証人にこれを調製させなければなりません。公証人に財産目録を調製させる場合には、相続人の立会いが必要です。

イ)遺言の執行
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。

ウ)遺言認知
遺言で認知がなされている場合、遺言執行者は、就職の日から10日以内に戸籍上の届出をしなければなりません。
成年の子の場合にはその承諾、胎児の認知の場合にはその母の承諾、成年の直系卑属を残して死亡した子の認知の場合にはその直系卑属の承諾が必要ですが、この承諾を得ることも遺言執行者の職務です。

エ)相続人の廃除および廃除の取消
遺言による相続人の廃除および廃除の取消については、遺言執行者は家庭裁判所にその請求を行い、確定後に戸籍法上の届出をする必要があります。

オ)遺言執行者の解任・辞任
遺言執行者が任務を怠ったとき、その他正当な事由があるときは、利害関係人の請求によって、家庭裁判所は遺言執行者を解任することができます。
遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任することができます。

③遺言執行者に対する報酬と遺言の執行に関する費用

遺言執行者に対する報酬は、遺言者が遺言で定めることもできますが、遺言に定められていないときは、相続財産の状況、その他諸般の事情を考慮して家庭裁判所が定めることができます。
また、遺言の執行に要する費用は、相続人の遺留分を害しない範囲で相続財産の負担とするものと定められています。