相続放棄⑧ 親が遺した田を誰も相続したくない・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんから連絡を受け、ご自宅に訪問させていただき相談を受けました。

Aさんのお父さんが亡くなられたそうで、お母さんは既に亡くなられており、Aさんのお姉さんも既に亡くなられているそうです。単純な相続事例かと思いましたが、よくよく話を聞いてみますとなかなか複雑な状況になっておりました。

お父さんの相続財産は先祖からの田と僅かな預貯金だけでした。相続人はAさんだけですので、そのまま相続手続を進めましょうとお話をすると、実はAさんは会社勤めで田をこのまま維持していく事はできないし、また相続する気もない。ということでした。

では、相続放棄をしましょうかという事でお話をすると、Aさんが相続放棄をすると相続人はお父さんの兄弟が相続人となってしまい、その兄弟も田を維持していく事ができない。ということでした。

お父さんは生前に、何度も農業委員会と話をしたそうですが、農地法上の農転許可が出ないそうでした。つまり“相続財産の田を誰も相続したくない”“田を宅地等に変更できない、売るに売れない”という八方塞がり状態になってしまっていたそうです。

因みにこの田には従前から小作人がいて、小作をしてもらっていたそうです。そのことは、農業委員会も黙認していたようでした。

  1. 農地法の許可とはどのようなことですか?
    農地転用許可の事で、農地法第3条から第5条に定められています。
    大雑把に言いますと、

    第3条は、権利移転の事で、農地を農地のままで変更せず、耕す人が変更する場合、つまり農業をする目的で農地の売買や貸し借りをしたりする場合等にいわゆる3条許可が必要になります。

    第4条は、転用の事で、所有者は変わらず、自分の農地を宅地等に変更する場合で、その農地に自宅を建てる場合などにいわゆる4条許可が必要になります。

    第5条は、第3条の「権利移動」と第4条の「転用」を同時に行うものです。事業者等が農地を買って造成して宅地に変えて転売したり、建物を建てたりする場合にいわゆる5条許可が必要になります。

  2. 相続の場合も農地法の許可が必要になりますか?
    相続による権利移転の場合には、農地法上の許可は不要です。農地法の許可がもらえないので、権利移転できない、相続できない事にはなりません。
    因みに相続の場合以外に、包括遺贈で取得する場合や共有農地で共有者が持分を放棄する場合、時効で取得する場合等も不要とされています。

Aさんには、やはり、田を相続する事ができないのであれば、相続放棄をしましょう。お父さんのご兄弟も田を相続しないのであればAさんと一緒に相続放棄をしましょうという事でお話をしました。

  1. 相続人が誰もいなくなった場合にはどうなりますか?
    相続人不存在となり、相続財産管理人の選任、相続債権者、受遺者、特別縁故者等から相続財産に対しての申し出が無ければ、最終的には国庫に帰属する事になります。
    相続相談事例集「相続人が誰もいない・・・」もご参照下さい。

    民法(相続財産法人の成立)
    第951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

    民法(相続財産の管理人の選任)
    第952条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

    民法(残余財産の国庫への帰属)
    第959条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。

本件は最終的には、当職の方から農業委員会に対してAさんや親族の相続関係、相続意思の説明、全員が相続放棄をすればどうなるか等を説明しました。そして、小作人の方がこの田をこのまま引き続き小作したいとの申し出もあり、結局農地法第3条の許可を取得しました。もちろん、Aさんが相続してその後小作人に売却するという流れになっております。

総括

相続放棄は文字通り相続権を放棄する事で、相続財産を相続したくない場合に行います。

一度相続放棄を行うともう後戻りはできず、やっぱり相続しますという事はできません。そして、相続放棄をすると、自分の相続権が全くなくなった事はハッキリしますが、その後の相続関係や財産関係がどのようになるのかハッキリしない場合が多々あります。

相続放棄に関して少しでも疑問や不安がございましたら相続、遺言の専門家、当事務所に早めにご相談下さい。