相続人が誰もいない・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相続登記の依頼を受けました。

亡くなられているのは、Aさんから見て、おじいさん、お父さん、おばあさんです。

登記名義人はおじいさんで、いわゆる数次相続の登記となります。相続人はAさんとAさんのお母さん及びAさんの兄弟です。

おじいさんの不動産をAさんが相続する事で、相続人間の話はできている、つまり遺産分割協議は終了しているとの事で、何の問題もない相続登記申請になると思われました。

最初に、戸籍等を収集し、相続人を確定させる作業から開始しました。おじいさんとおばあさんは共に明治初めの生まれで、やはり戸籍の一部は廃棄済の為収集できませんでした。

しかし、おじいさんの死亡は昭和27年、おばあさんは昭和53年ですので、旧民法や応急措置法の事はそれほど考えなくてもよく、問題なく登記できると思っていました。

  1. 旧民法、応急措置法と相続とはどう関係しますか?
    明治期以降の相続制度の変遷は次の通りとなっております。

    自 明治31年7月16日  旧民法の適用
    至 昭和22年5月2日  戸主を中心とする「家」制度を採用
     家督相続と遺産相続がありました。等
       ↓
    自 昭和22年5月3日  応急措置法の適用
    至 昭和22年12月31日  家督相続制度の廃止
     相続順位、相続分が修正されました。等
       ↓
      昭和23年1月1日~  新民法(現民法)

被相続人が亡くなったのがいつか、つまり、亡くなった日によって、適用する相続法が変わって来る事になります。

戸籍の収集が終り、繰り返し戸籍を調査してみますと、おじいさんとお父さんは養子縁組をされていたのですが、おばあさんとお父さんは養子縁組をされていないのです。

夫婦共同縁組に反するのではないかと調べましたが、おじいさんとお父さんの養子縁組をした後におじいさんはおばあさんと結婚されておりました。

その時お父さんは成人しており、何も問題はなさそうです。

お婆さんの相続関係を調べてみますと、相続権がある人は存在していませんでした。つまり、相続人不存在です。

何の問題もなく相続登記申請ができると思っていたのですが、相続人不存在の手続きが必要になりました。

  1. 相続人不存在とはどういうことですか?
    相続人のあることが明らかでないことです。つまり、相続人がいるかいないのか、はっきりと解らない場合をいい、単に相続人が行方不明や生死不明の場合を言うのではありません。
  2. この場合の手続きはどうのようにするのですか?
    相続人不存在の場合、相続財産は当然に法人(相続財産法人)となり、次のような手続きが必要になります。
    ①相続財産管理人の選任及び公告(2ヶ月以上)
    ②相続債権者及び受遺者に対する債権申し出公告(2ヶ月以上)
    ③相続人捜索の公告(6ヶ月以上)
    ④特別縁故者への財産分与申立期間(3ヶ月以内)
    ⑤「特別縁故者への財産分与」「共有者への持分権帰属」「国庫へ帰属」 のいずれかになります。
    という流れとなり、手続き開始から最低でも1年1ヶ月かかります。

本件は上記手続きを経て無事当初から思っていた相続登記を完了させることができました。

総括

本件は相談及び受任から2年近くも要し、費用もかなりかかりましたが、無事相続登記は完了しました。

しかし、もし、おばあさんが生きておられる時に、遺産分協議を行っていたり、相続登記を済ましておけば、相続人不存在の手続きは必要ありませんでした。

そうであるならば、お父さんからの相続登記は何の問題もなく処理できたかと思われます。

おじいさんが亡くなられてからの実に60年目の相続登記となりましたが、相続登記はできるだけ早く行う事に越した事は無いことを現したよい事例だと思います。