相続放棄⑥-2 債権者が私達の相続登記をしています・・・

ご相談内容

相続放棄⑥-1 債権者が私達の相続登記をしています・・・」のつづきです。

前回のあらすじです。

大阪在住のAさんのお父さんが2ヶ月前に亡くなられました。相続人はAさんを含め子供3人です。お父さんはサラ金業者等に借金があり、いくらの借金があるのかわからない。相続財産は自宅の土地建物だけで、借金の方が多いのか、プラスの財産の方が多いのかわからない。相続の限定承認も説明しましたが、相続放棄をしたいとの意向でした。

相続放棄をする為に手続きを開始しようとした時にAさんがお父さんのご自宅の登記簿謄本をだしました。そこには、既にAさんを含めて相続登記がされていました。そして、代位者としてサラ金業者の名前があり、代位原因として金銭消費貸借の強制執行とありました。

  1. このサラ金業者がした登記とはどのようなものか説明して下さい。
    これは、代位の登記といいまして、民法423条に規定されている債権者代位権に基づいて債権者が相続登記をしたものです。

    例えば、Xさんにお金を貸しているZさんは、Xさんが有する相続登記請求権を行使して相続登記を行った後、Xさんの所有するこの不動産を強制競売して、ZさんのXさんに対する金銭債権の返済を受けるものです。

  2. 債権者代位権についてもう少し説明して下さい。
    債権者代位権とは、債権者が自己の債権を保全するために、債務者の有する権利を行使することができる権限をいいます。

    【例】

    1.AはBに対して100万円貸しています。

    2.BはCに対して150万円貸しています。

    3.Bには他に財産を保有していません。

    4.AのBに対する債権の返済期限がきましたが、Bには返すお金がありません。

    5.BのCに対する債権の返済期限は過ぎているのに、Bは取り立てようとしません。

    6.このままではAはBから返済してもらえません。そこで、BのCに対する債権をBに代わって(Bに代位して)Cに対して取り立ててAのBに対する100万円の貸金を返してもらうのです。

    この債権者代位権は裁判上でも裁判外でも行使できます。

Aさんの場合では、どうも弟さんの債権者が債権者代位権を行使して相続登記を行ったようです。通常相続登記を行えば、相続の法定単純承認事項に該当し、相続放棄はできないものと思われます。しかし、今回は債権者代位権によって言ってみれば他人が勝手に相続登記を行ったので、相続放棄はできるものと思われます。このように説明して、Aさんには納得していただき相続放棄手続きを進めました。

もう一歩進んで

Aさんたち全員が相続放棄を行った場合はこの不動産の登記はどうなるのでしょうか?
これには参考となる最高裁判例があります。

相続人は、相続の放棄をした場合には、相続開始時にさかのぼって相続開始がなかったと同じ地位に立ち、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何びとに対してもその効力を生ずべきものと解すべきであって、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記不動産について右相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記(共同相続名義)をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効である。(最判昭和42・1・20)

上記判例からいきますと、今回のAさんの場合であれば、相続人全員が相続放棄することになりますので、不動産になされた相続登記は抹消せざるを得ないでしょう。そして、お父さんの相続人がだれもいなくなりますので、相続人不存在により利害関係人から相続財産管理人の選任請求をする事になるものと思われます。

総括

今回のケースは稀なケースかも知れませんがたまに見かけるケースです。

他人が勝手登記申請をしてしまうのは、今回の債権者代位権に基づく登記や判決による登記などがあります。

いづれの場合でも、権利義務関係があり相続登記にも複雑にからんでくる場合もあります。そのような場合でも、処理の仕方を間違えば法定単純承認事項に該当する行為をしてしまう可能性もあります。

相続登記や相続放棄手続きに少しでも疑問を持ったり、不安に思ったら相続についての専門家にご相談下さい。