相続放棄⑨ 長男が債務も含め全て相続したいのですが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんからご連絡をいただきご自宅を訪問させていただきました。

Aさんのお父さんが先月に亡くなられたそうです。相続人は子供4人で、長男Aさんの他、長女、次男、三男だそうです。

Aさんの相談は、お父さんの相続は、全てAさんがしたいのですがどうすれば良いかとの事でした。長女以下兄弟全員は長男が相続する事で話はできている、つまり遺産分割協議ができているとのことでした。

遺産分割協議ができているのであれば問題が無いのではないかとも思われましたが、よくよく話を聞いてみると、相続債務があるそうです。そして、その債務の返済を兄弟全員が法定相続分の通り請求されているそうです。

Aさんは、お父さんの債務も含めて全てAさんが相続したと債権者に言ったそうですがどうにも話にならなくて事務所に相談に来られました。

Aさんが言う通り、兄弟間で遺産分割協議をすれば、相続債務も含めて全て相続する事ができるのでしょうか?。

  1. お父さんの債務も含めて全て相続したのに、どうしてこうなるのですか?

    金銭債務は遺産分割の対象にはなりません。判例を紹介しておきます。

    (最判昭34.6.19)
    債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである。

  2. Aさん達が行った遺産分割協議は無効ですか?
    全く無効とは言い切れません。Aさん達兄弟の内部的部分については一応有効でしょう。Aさんが、他の兄弟が相続した相続債務を支払う、つまり履行引受等と考えることができるからです。また債権者が、Aさんが単独の債務者になる事を承諾するのであれば債務引受の問題となり、有効になる余地があります。
  3. Aさんが単独で債務も含めて相続するには債権者の同意が必要ですか?
    債権者の同意を得られるのであれば問題はありませんが、得られない場合は難しいと思われます。
  4. 債権者の同意を得る他に、Aさんが全てを相続する方法は全くありませんか?
    多少テクニカルにはなりますが、相続放棄をする方法があります。つまり、Aさん以外の兄弟のみなさんが相続放棄を行えば、Aさん以外の兄弟は初めから相続人ではない為、Aさんが唯一の相続人となり、債務も含めて全てAさんが相続する事になります。

Aさん以外の兄弟は、もともと積極財産も消極財産もお父さんの財産の相続をするつもりはなかったため、すぐに話はまとまり、Aさんを遺してみなさん相続放棄の手続きを行いました。そして、債権者にその旨の通知をした事は言うに及びません。

総括

相続問題は誰にでも起こり得る問題です。相続人間だけで正しく判断できれば良いのですが、誤った知識やあやふやな知識で判断して大きな失敗をすることもよくある話です。法律に則って処理すれば何の問題も起こらないのに、大きな借金を相続してしまったり、逆に大きな財産や権利をフイに破棄してしまったりという事はよくあるこです。

相続に関して疑問や不安が少しでもある時は、相続人間だけで判断せずに一度は相続の専門家にご相談下さい。