遺留分⑦ 1年以上経っていますが、遺留分減殺請求できますか・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相談を受けました。

Aさんのお父さんが2年程前に亡くなられたそうです。Aさんのお母さんは既に亡くなられております。相続人はAさんとお兄さんのXさんの2人だけだそうです。

Aさんは商社に勤めており、海外勤務が長く、お父さんが亡くなった時も一時帰国していましたが、すぐに海外の勤務場所に戻り、最近ようやく大阪勤務に戻ったそうです。お父さんの相続手続は何も手を付けていないと思っていたそうですが、Xさんがお父さんの公正証書遺言に基づいて全財産を相続してしまっていたそうです。

お父さんの相続手続を放っておいたのは悪いが、Aさんの分も相続財産があるのなら、欲しいと思い、Xさんに話をしようと思ったけれどなかなか言いにくく、また、相続手続が終わってしまっているし、2年も前の事だと思い、法律的にはどうなるのかと相談に来られたものです。

  1. Aさんにはお父さんの財産を相続する事はできないのでしょうか?
    お父さんは公正証書遺言を遺されており、基本的にはXさんが全財産を相続する事になります。
    Aさんが相続する為には、その公正証書遺言の無効を主張するか、遺留分の減殺請求権を行使するぐらいしか方法は無いように思われます。
  2. お父さんが亡くなってから2年程経過しており、お兄さんが相続手続を終えてからも1年半程経過していますが、遺留分減殺請求をする事ができますか?
    民法1042条に次のように定められております。

    民法(減殺請求権の期間の制限)
    第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

    つまり、Aさんがお父さんの相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければなりません。

    減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時を証明するのはなかなか難しいと思われますが、Aさんは大阪勤務に最近になって変更になり、お父さんの財産をXさんが全て相続している事を転勤を機に知ったので、遺留分減殺請求をする事ができると思われます。

    また、Aさんは実は1年程前に帰国した時、遺産分割の申し入れをしていたそうです。

    Xさんに遺産分割してほしいと申し入れたようですが、仕事も忙しく、すぐに海外に戻ってしまいそのままになってしまったようです。

  3. 遺産分割の申入れと遺留分減殺請求とはどのような関係にあるのですか?
    これには判例があります。Aさんのケースにそのままあてはまるかどうかは解りませんが、判例を紹介しておきます。

    (最判平成10.6.11)
    遺産分割と遺留分減殺請求とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申し入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。
    しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申し入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。

総括

相続関係に基づく権利変動はなるべく早くに確定させることによって、法律関係の安定や取引の保護を図ろうとするために、短期の消滅時効期間や、除斥期間が定められております。しかし、遺留分権利者の権利も護らなければならず、お互いの権利擁護は難しいものです。

相続や遺留分、遺留分減殺請求に関して少しでも不安や疑問がございましたら相続、遺言の専門家、当事務所までご相談下さい。