遺留分⑥ 遺留分減殺請求をしたら、お金を渡すと言われましたが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相談を受けました。

Aさんのお父さんが半年前に亡くなられたそうです。Aさんのお母さんは既に亡くなられております。お父さんは後に再婚していわゆる後妻と後妻の連れ子が1人います。この連れ子とお父さんは養子縁組はしていません。

従って、相続人はAさんと後妻であるXさんの2人という事になります。今回Aさんが遺留分減殺請求をした目的の財産は、Aさんと父母が一緒に暮らしていた自宅(土地建物)だそうです。子供のころから3人で仲良く暮らしてきた自宅は色々な想い出があり、両親が亡くなってしまっても、手放したくないそうです。

お父さんの遺言によって、相続財産のほとんどをXさんが相続したそうです。Aさんは生前贈与を少し受けており、相続財産は殆ど相続していないような状態でした。

Aさんは色々調べて自宅を目的として遺留分減殺請求をしたそうです。自宅の価格や、他の相続財産の価格、Aさんが受けた生前贈与の価格等、Aさんの説明では、自宅の土地建物は遺留分減殺請求の目的に充分なり得るように思いました。

Aさんが内容証明郵便で、遺留分減殺請求権を行使すると、Xさんからお金で払うとの返事がきたそうです。これって正当ですか?とのご相談です。

  1. 遺留分減殺請求を受けた受遺者がその目的財産を返還する代わりにお金を払う、いわゆる代償金の支払は認められていますか?
    民法1041条に規定があり、価格による弁償も認められております。

    民法(遺留分権利者に対する価額による弁償)
    第1041条 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。

  2. この規定は知っていますが、遺留分減殺請求権を行使した時点で、目的物の所有権は当然に遺留分減殺請求権を行使した人に帰属するのではないのですか?
    なかなかよく調べられています。最判の昭和41年7月14日の事を言われているのだと思います。

    (最判昭和41.7.14)
    遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一たんその意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。

    この判例からすると、遺留分減殺請求権が行使されると、当然にその効力が生じる。つまり、遺留分減殺請求の目的物が不動産であった場合、その不動産の所有権は当然に遺留分減殺請求権を行使した人に帰属する事になります。
    Aさんはこの事を言いたかったようです。
    しかし、次のような判例もあり、実務でもこのように処理されています。

    (最判平成20.1.24他)
    受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け、遺贈の目的の価格について履行の提供をした場合には、当該受遺者は目的物の返還義務を免れ、他方、当該遺留分権利者は、受遺者に対し、弁償すべき価格に相当する金銭の支払を求める権利を取得すると解される。

    しかし、「受遺者は単に価格の弁償をなすべき旨の意思表示をしただけでは足りず、価格の弁償を現実に履行するか、あるいは価格弁償のための履行を提供して初めて現物返還義務を免れる。」という判例があります。

    今回のケースではAさんに対して価格弁償するというお手紙の返事だけでしたので、現状では、まだXさんは、現物返還するのか、または価格弁償するのか選択することができ、Aさんも同様に選択して請求する事ができます。つまり、AさんとXさんの話し合いがまとまれば、Aさんは現物返還を受ける事ができます。

総括

今回の件につきまして、AさんはXさんに直接交渉に行き、お金の問題だけでは無く、自宅に対する想いや感情を説明して、結局自宅の現物返還を受けました。

相続に関する事は、お金に関する問題が多いですが、被相続人や相続財産にまつわる感情、想いによって問題が生じる事もまた事実です。相続問題が生じる前に、法令や判例をよく理解して対処したいものです。

相続に関する制度は複雑でわかりにくところが多いものです。遺留分に関する権利義務については特にわかりにくく、また難しい問題がたくさんあります。相続に関して少しでも疑問がございましたら相続、遺言の専門家、当事務所にご相談下さい。