遺留分⑤ 相続財産を処分後に遺留分の減殺請求がきましたが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相談を受けました。

Aさんのお父さんが3年前に亡くなられたそうです。Aさんのお母さんは既に亡くなられており、お父さんの相続人はAさんとAさんの弟のXさんだけだそうです。

実はXさんはお父さんとケンカして、10年ぐらい前から音信不通となってしまっていたそうです。そんな事情もあって、お父さんは「財産の全てをAさんに相続させる」と遺言を遺されていました。その遺言には遺言執行者も定められており、遺言通りにお父さんの財産は全てAさんが相続して、相続手続きは終了したそうです。

お父さんの3回忌の法要の1ヶ月前に、突然弟のXさんがAさんの自宅を訪ねてきたそうです。その時に、お父さんが亡くなった事や相続については遺言通りに相続手続を行った事等を話したそうです。その時は、それで話は終わったそうですが、2週間ぐらい前に突然遺留分の減殺請求をされたそうです。

Aさんが相続した財産はお父さんの自宅と預貯金があったそうです。Xさんが遺留分の減殺請求をしてきたのは、従前家族で暮らした、思い出のある自宅(土地、建物)でした。ところが、Aさんは嫁いでおり、自宅は不要となったため相続登記を経たのちに売却してしまっていました。

Aさんが言うには、不動産を目的に遺留分減殺請求をしてきているが、不動産は売却して、他人の物になってしまっているから、もうどうする事もできないのではないか?つまりこの遺留分減殺請求は無効ではないか?との事です。

  1. 遺留分減殺請求を受けた受遺者がその目的財産を処分してしまっていたら、その遺留分減殺請求は無効になるのですか?
    そのような法律の規定はありません。そうなるのであれば、遺留分減殺請求を受ける恐れがある場合、誰でもいち早くその目的財産を処分してしまいます。

    民法(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
    第1040条 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。

    実際に自宅を取り戻す事は難しいと思いますが、AさんはXさんに価格弁償しなければならないと思われます。
    因みに今回のXさんの遺留分はお父さんの総財産の4分の1です。(1/2×1/2)

  2. 民法1040条の規定では、受贈者、つまり贈与を受けた人に対する規定であって、相続人(受遺者)に対する規定ではないのではないのですか?
    民法の規定はそのようになっておりますが、受遺者に対してもこの民法1040条の規定を類推適用するとの判例があります。

    (最判平成10.3.10)
    遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき受遺者が遺贈の目的を他人に譲り渡した場合には、民法1040条第1項の類推適用により、譲渡の当時譲受人が遺留分権利者に損害を加える事を知っていた時を除き、遺留分権利者は受遺者に対してその価格の弁償を請求し得るにとどまり、その弁償すべき額の算定においては、遺留分権利者が減殺請求権の行使により当該遺贈の目的につき取得すべきであった権利の処分額が客観的に相当と認められるものであった場合には、その額を基準とすべきである。

総括

今回の件につきまして、AさんはXさんに価格弁償しました。元々AさんXさんは兄弟仲がよく話はスムーズにつきました。

AさんXさんのように話がスムーズに収まれば良いのですが、実はこの価格弁償には非常に難しい問題が潜んでおります。今回の事例では触れておりませんが、「いつの時点の価格を算定するのか?」つまり、目的物の価格の算定方法及び算定する基準日、遺留分減殺請求権を行使した日からの利息、今回のように第3者に譲渡されていた場合や他の相続人に譲渡されていた場合等があります。

相続に関する制度は複雑でわかりにくところが多いものです。遺留分に関する権利義務については特にわかりにくく、また難しい問題がたくさんあります。遺留分に関して少しでも疑問がございましたら相続、遺言の専門家、当事務所にご相談下さい。