遺留分④ 債権者も遺留分を請求できますか・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんから連絡を受け、ご自宅に訪問させていただき相談を受けました。

Aさんのお父さんが3ヶ月前に亡くなられたそうです。Aさんのお母さんは既に亡くなられており、お姉さんがおられましたが、半年前にご病気で亡くなられたそうです。つまり、お父さんの相続人はAさんのみという事です。

何の問題も生じない相続関係かと思ったのですが、最近Aさん宛に遺留分減殺請求に関する内容証明郵便が届いたそうです。お父さんの相続で遺留分権利者はAさんのみなので、Aさんが遺留分減殺請求をされる事は考えられないのですが、よくよく話を聞いてみると、お父さんの相続ではなく、お姉さんの相続に関する問題でした。

Aさんのお姉さんは離婚しており、子供はいないそうです。つまり、相続人はお父さんのみという事です。そして、お姉さんはAさんに全財産を包括遺贈していました。そしてお父さんはサラ金業者から100万円程の借金を残したまま亡くなったそうです。つまり、そのサラ金業者がお姉さんの相続に関するお父さんの遺留分を減殺請求してきたのです。

  1. 遺留分権利者の債権者も遺留分減殺請求をする事ができるのですか?
    遺留分減殺請求をする事ができる人は、遺留分権利者及びその承継人です。
    つまり、遺留分権利者の債権者は遺留分減殺請求をすることができません。

    民法(遺贈又は贈与の減殺請求)
    第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

  2. 債権者が直接遺留分減殺請求をするわけではなく、相続人つまりお父さんの遺留分減殺請求権をお父さんに代わって行使する事もできませんか?
    お父さんに代わって行使する、つまり代位行使の考え方をとっても、やはり遺留分減殺請求権を行使する事はできないと解されてます。これは、遺留分減殺請求権は行使上の一身専属性を有するものとされているからです。

    判例を一つ紹介しておきます。

    (最判平成13.11.22)
    遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。

    遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる(1031条、1043条参照)。

    そうすると、遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり、民法423条1項ただし書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である。民法1031条が、遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは、この権利がいわゆる帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、上記のように解する妨げとはならない。

Aさんには、お父さんに借金があった為、相続放棄をするかどうかの確認を行いました。お父さんの相続財産は、借金しか無かった為、Aさんは相続放棄をしました。

なお、お父さんの債権者が行使してきた遺留分減殺請求については認められない旨の通知を行いました。また、お父さんの相続について、相続放棄をした事の通知を行ったことは言うまでもありません。

総括

相続に関する制度は複雑でわかりにくところが多いものです。遺留分に関する権利義務については特にわかりにくく、また難しい問題を含んでおります。

何の理解もないまま対応すると、不測の損害を被る事もあります。遺留分に関して少しでも疑問がございましたら相続、遺言の専門家、当事務所にご相談下さい。