相続放棄⑦ お父さんが生きているうちに相続放棄しましたが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんからご連絡をいただきご自宅を訪問させていただきました。

Aさんのお父さんが2ヶ月前に亡くなられたそうです。相続人は子供3人で、長男Aさん、次男Bさん長女Cさんだそうです。

Aさんのお父さんはもともと個人で不動産屋さんをしていたらしく、結構羽振りが良かったそうですが、昔気質の不動産屋さんなので、長男のAさんに仕事を手伝えとかなりキツク言っていたそうです。Aさんには幼いころから憧れていた職業があったらしく、お父さんから仕事の事を言われるのが嫌でお父さんと不仲になってしまい、挙句の果てにお父さんの目の前で、「私はお父さんの財産を一切相続しません。相続を放棄します。」と書かされたそうです。

お父さんの仕事は数年前から次男のBさんが法人を設立して引き継いだような恰好となり、相続といっても預貯金と小さな貸駐車場があるだけのようでした。

Aさんはお父さんの生前に相続放棄をしていますので相続権がないのかとのご相談です。

  1. Aさんはお父さんの生前に相続放棄をしているので、相続はできませんか?
    被相続人の生前に相続放棄をする事はできません。つまり、被相続人の生前に行った「相続放棄」は無効です。
    そもそも被相続人の生前に行う相続放棄については、法律上手続きが規定されていません。家庭裁判所も受付をしてくれません。

民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

民法(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

被相続人の生前に行った相続放棄と同様に、被相続人の生前に相続人間で行った遺産分割協議や遺産分割の契約も無効と解されています。

今回Aさんがお父さんの面前で行った「相続放棄」は被相続人の生前の遺産分割協議とも考えられなくはありませんが、こちらもやはり無効です。

被相続人の生前に行った「相続放棄」や「遺産分割協議」については数多くの判例や家事審判が出ており無効との取扱いになっております。

実はこの相談には後日談がありまして、数日後あわててAさんが事務所にこられてお父さんの面前で行った「相続放棄」は本当に無効かと再度確認されました。もともとAさんはお父さんの財産を一切相続していなかったそうですが、実はお父さんは生前仕事仲間の保証人になっており、銀行から莫大な保証債務の請求が来ていたそうです。BさんCさんはその請求を知っていたのでいち早く相続放棄の手続きをしていたそうですが、Aさんはお父さんの生前に「相続放棄」していたから問題ないと思われていたようです。

すぐさまAさんの正式な相続放棄手続きを開始した事は言うまでもありません。

総括

相続問題は誰にでも起こり得る問題です。相続人間だけで正しく判断できれば良いのですが、誤った知識やあやふやな知識で判断して大きな失敗をすることもよくある話です。法律に則って処理すれば何の問題も起こらないのに、大きな借金を相続してしまったり、逆に大きな財産や権利をフイに破棄してしまったりという事はよくあるこです。

相続に関して疑問や不安が少しでもある時は、相続人間だけで判断せずに一度は相続の専門家にご相談下さい。