私がもらった土地の名義が知らない人の名義になっています
ご相談内容
大阪在住のAさんが事務所にこられて相談を受けました。
内容は、私が遺贈してもらったはずの土地の名義が相続人の名義になり、その後知らない人の名義になっているという事でした。
よくよく話を聞いてみますと、亡くなられたのはAさんのお兄さんであるXさんで、Xさんには子供が2人おられたそうです。つまり、Xさんの相続人は子供である長男さんと長女さんでした。
Xさんの面倒はAさんが最期までみていたそうでした。Xさんは、相続財産は子供2人で均等に相続するように遺言を遺していたのですが、その遺言書に、最期まで面倒をみてくれたAさんに土地を遺贈すると遺していたそうです。その遺言の事をAさんは忘れていたそうですが、Xさんの一周忌の時にふと思い出し、遺言書と土地の事を調べて解ったそうです。
遺言書は公正証書遺言であり、確かに土地をAさんに遺贈すると書かれていました。土地の登記を確認すると、長男さんに相続登記がされて、その後長男さんが他人のZさんに土地を売却されたものでした。
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- この土地の名義はZさんで登記されてしまっているので、もうどうする事もできないのでしょうか?
- 不動産登記の場合、登記をしなければ第3者に対抗することができません。そして、基本的には登記の早い方が勝ちとなります。つまり、不動産の登記名義を早くに取得した方がその不動産を取得し、あとの方は不動産を取得できないようになっています。ただし、色々な条件が揃えば後から不動産の所有権を主張する人でも勝つことができます。
民 法
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
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- Aさんはこの土地を取得する事ができるのでしょうか?
- 遺贈で取得した不動産の場合には、通常民法第177条による対抗関係で処理するのが原則です。原則通りであれば、Aさんはこの土地の所有権をZさんに対抗することができません。しかし、遺贈の場合でも第3者に対抗できる場合もあります。
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- どのような場合にAさんはZさんに対抗することができるのでしょうか?
- この遺言書に遺言執行者の指定がある場合には、対抗できる場合もあります。
民 法
(遺言執行者の指定)
第1006条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
判例を一つ紹介しておきます。
(最判昭和62.4.23)
民法第1012条第1項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法第1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、このような法の趣旨からすると、相続人が同法第1013条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の前記処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして前記処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である。同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前も含む。
総括
相続手続は非常に多岐にわたり複雑です。そこに遺言があればなおさら権利関係が複雑になります。通常の考え方では処理できない場合もあります。
相続手続について少しでも疑問に思う事やトラブルになりそうな場合には専門家にご相談下さい。