この遺言書で、私ひとりで相続登記ができますか?

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相続手続の相談を受けました。

相談内容は、遺言書を持っているけれど、この遺言書で、私ひとりの手続きで相続登記ができるかどうかという事でした。

亡くなられたのはお父さんで、お父さんとお母さんはAさんが小さい頃に離婚されたそうです。Aさんにはお兄さんいるそうですが、お兄さんはお母さんが引き取って育て、Aさんはお父さんが育てたそうです。

そのような状況なので、お父さんは、自分の相続財産は全てAさんに相続させたかったものと思われ、遺言書で相続財産の全てをAさんに相続させると遺したとの事でした。因みにこの遺言書は自筆証書遺言でした。

  1. 自筆証書遺言でも不動産登記に使えますか?
    自筆証書遺言とは、全文自筆で日付及び氏名を自書し押印しなければなりません。自筆証書遺言の要件は法令上これだけです。当然自筆証書遺言でも不動産登記に使用できます。但し、自筆証書遺言は、裁判所の検認手続きを受けなければ、遺言の執行はできません。つまり検認手続きを受けていない自筆証書遺言書では、不動産登記には使えない事になります。

民 法
(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

(遺言書の検認)
第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

  1. 遺言書の検認手続きとはどのような事をするのですか?
    検認手続きとは、裁判所から相続人全員に対して遺言書の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを検認の行った日における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

Aさんが持っていた遺言書は検認手続きを受けていなかったので、至急に検認手続きを行うように伝え、手続きを開始しました。

Aさんは、お兄さんとは小さい頃に別れてしまって、その後お互いに連絡も一切無かったそうでした。どこでどうしているのかも全くわからないし、知りたいとも思わなかったそうです。ですから、相続登記を自分ひとりで済ませたかったそうでした。

  1. 遺言書があれば、自分ひとりで相続登記ができますか?
    遺言書の検認手続きの中で、お兄さんには裁判所から連絡が行く事になります。お兄さんが、遺言書の検認手続きに参加しても、参加しなくても検認手続きは進んで終了します。その後その遺言書は裁判所の検認手続きを経た遺言書となりますので、遺言の執行が可能になります。

    厳密な意味で、お兄さんの協力なくして相続登記ができるかと言われれば微妙ですが、裁判所の検認手続きを終えた遺言書があれば、自分ひとりで相続登記が出来るもの思われます。当然ですが、遺言の内容がそのように書かれてなければなりません。

総括

Aさんが持っていた遺言書はいわゆる「相続させる」遺言でした。裁判所の検認手続きには結局お兄さんは参加しなかったので、結果としてAさんひとりで相続登記を終える事ができました。

「相続させる」遺言についてはまた別で解説したいと思っておりますが、遺言書の書き方が違えば、手続きが変わってしまったり、ひどい場合には遺言者が望んだ結果にならなかたっり、極端な例ではせっかく書いた遺言書が無効になったりします。

遺言書を書く場合には、一度専門家にご相談される事をお薦めいたします。