この遺言は無効じゃないですか①・・・(愛人への遺贈)

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所にこられて相談を受けました。Aさんは遺言書を持って相談に来られたのですが、その遺言書には2000万円をYさんに譲ると書いてありました。よく事情を聴いてみますと、Yさんは亡くなったご主人Xさんの愛人で、Xさんが亡くなっって、相続が開始しているので、Yさんは早く2000万円下さいとAさんに請求してくるそうです。

そこで、Aさんはこのような愛人に対する遺言なんて無効ではないのか、こんな不道徳な事が許されるのかということで、事務所に相談に来られたのでした。つまり、公序良俗違反で無効であるとの主張です。

  1. 公序良俗違反とはどういゆことですか?
    民法90条に公序良俗について定められています。

    (公序良俗)
    第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

    公の秩序(国家や社会などの一般的な秩序)や、善良の風俗(社会の一般的な道徳的観念や社会通念)に反するような法律行為は無効と規定してあります。つまり、社会的に妥当性の欠けるような法律行為や契約は無効となります。どのような行為が公序良俗違反となるのかは、その行為によって個別、具体的に判断しなければならないでしょう。3つ判例を紹介しておきます。

    (大判判昭13.3.30)
    借主が、賭博に負けたために負担している債務を弁済する目的であることを貸主に開示して金員を借り受けた場合、そのような金銭消費貸借契約を締結することは、借主が将来もまたその資金の融通を受けることができると信頼して賭博を繰り返すという弊害を生じさせるおそれがないとはいえないから、本件金銭消費貸借契約は公序良俗に反し無効である。

    (最判昭30.10.7)
    Y1はXから金員を借り受け、Y2がこの債務について連帯保証をしたが、その際、当該債務について、Y1の娘AがX方で酌婦として働き、その報酬の半額を弁済に充てる旨の約定がなされた場合、酌婦稼働による弁済特約は公序良俗に反し無効であり、Y1の金員受領はAの酌婦稼働と密接不可分の関係にあるから、本件消費貸借契約及び連帯保柾契約も無効である。

    (最判昭61.5.29)
    先物取引によって金地金の売買をする会社の社員が、家庭の主婦で商品取引の知織のない者に対し、この取引が投機性を有することなどを説明せず、安全かつ有利な取引であることを強調して、3時間以上にわたり執拗に勧誘したうえ、本件取引を行わせた場合、その取引は著しく不公正な方法によって行われたものであるから、商品取引所法に違反するかどうかについて論ずるまでもなく、公序良俗に反し無効である。

  2. Aさんが言うようにXさんの遺言も公序良俗違反で無効ですか?
    それはそうとも言い切れません。先程も言いましたが、個別、具体的に判断しなければなりません。
    よく似たケースの判例を紹介しておきます。

    (最判昭61.11.20)
    Xが不倫関係にあったY女に全遺産の三分の一を遺贈する旨の遺言について、XはYと死亡時まで約七年間半同棲の関係にあり、他方Xと妻Aはその以前から別居するなど、夫婦としての実体がある程度喪失しており、また、本件遺言の作成前後でXとYの親密度が特段増減したという事情もない等の事実関係の下では、本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく、もっぱら生計をXに頼っていたYの生活を保全するためになされたものであり、また、右遺言の内容はAらの生活の基盤を脅かすものでもないから、本件遺言は民法90条に反するものとはいえない。

総括

遺言の効力を公序良俗違反で争うのは一般的に厳しいものになると思われます。

本件のAさんの場合も上記の判例通りに判断できるのかどうかはわかりませんが、この遺言の効力を争うのはなかなか難しいものになると思われます。

遺言の効力が生じる時には遺言者は当然死亡しており、相続が開始しております。後々で問題を残さない遺言書を作成するためにも、一度専門家にご相談される事をおすすめいたします。そして、相続人の方も遺言書について疑義がある場合にはやはり専門家に相談される事をおすすめいたします。