相続財産から生じる賃料は誰のもの・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相続問題に関して相談を受けました。

相続関係は、亡くなられたのはお父さん、お母さんは数年前に亡くなられており、子供3人が相続人となります。Aさんは3番目の子供で次男です。上には長男さんと長女がいるそうです。Aさんはもともと東京の出身で長男は今でも東京の実家にいるそうですが、Aさんは大阪、長女は結婚して現在四国で生活しているそうです。

お父さんが亡くなられたのは一昨年らしいのですが、現預金も遺産分割の対象財産に含め、実家の不動産と合わせて遺産分割が終了しているそうです。しかし、Aさんも長女も東京から離れて暮らしているのでほったらかしにしてしまっている相続財産があるそうです。それは、それほど大きくはないらしいのですが、8世帯位が入居できる木造のアパートがあるそうです。

そこで相談ですが、そのアパート自体の相続は、誰が相続するのか結論が出ていませんが、このアパートから生じる賃料はいったい誰のものになるのかということです。今は長男がこのアパートを管理しているので、長男が賃料を全て取得していますがそれって正しいのですか?ということです。

  1. このアパートの権利関係について説明して下さい。

    遺産分割が終了していない、いわゆる未分割の不動産については、遺産共有という権利関係になります。

    民法(共同相続の効力)
    第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

    (共有物の使用) 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。第249条 
    (共有物の変更) 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。第251条
    (共有物の管理) 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。第252条
    (共有物に関する負担) 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。第253条

  2. アパートから生じる賃料はどうなるのですか?

    賃料収益は遺産とは別個の共同相続人間の財産となります。つまり、遺産分割の対象財産にはならないことになります。
    しかし、当事者全員がこれを遺産分割の対象とすることに合意した場合には、遺産分割に含めることができます。判例を2つ紹介しておきます。

    遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
    したがって,相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの聞に本件各不動産から生じた賃料債権は,被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり,本件口座の残金は,これを前提として清算されるべきである。
    (最判平成17年9月8日)

    相続開始後遺産分割までの聞に相続財産から生ずる家賃は,相続財産そのものではなく,相続財産から生ずる法定果実であり、相続財産とは別個の共有財産であり,その分割ないし清算は,原則的には民事訴訟手続によるべきものである。但し,相続財産から生ずる家賃が相続財産についての持分と同率の持分による共有財産であり,遺産分割手続において相続財産と同時に分割することによって,別途民事訴訟手続によるまでもなく簡便に権利の実現が得られるなどの合理性があることを考慮すると,相続財産と一括して分割の対象とする限り,例外的に遺産分割の対象とすることも許容されるものと解すべきである。この場合,当事者の訴権を保障する観点から,相続開始後遺産分割までの間の家賃を遺産分割の対象とするには,当事者間にその旨の合意が存在することが必要であると解するのが相当である。
    (東京高決昭和63年1月14日)

総括

上記判例が示す通り、賃料債権は遺産とは別個の財産ということになります。当事者としては、やはり相続財産から生じた賃料なので、遺産相続の問題に含めて話をした方が解決しやすいと考えるかも知れません。

この事を否定する事はありませんが、基本はやはり共有関係の内部問題になります。ここで忘れないでほしいのですが、賃料債権ばかりに注目していますが、固定資産税の支払や建物修繕費用等、債務の発生もあります。こちらもやはり共有関係で処理する事になります。

遺産共有関係、発生している債権債務、将来にわたって発生する債権債務のことも考えて遺産分割協議、共有物分割協議に臨むべきでしょう。