相続財産の家に人が住みついていますが③・・・(相続人の一人)

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相談をうけました。

相談内容は、昨年お父さんが亡くなられたそうです。お母さんは既に亡くなられており、相続人は子供の5人だそうです。

預貯金の相続は5人で均等に分けて終了しているそうです。兄弟仲もいうほど悪くなく、何の相続問題も無いように思えたのですが、お父さんが住んでいた家の相続問題があるそうです。

お父さんが亡くなった当初は、この家は売却して、売却代金を5人で均等に分ける方向で考えていたそうです。しかし、しばらくすると、その家に長男の家族が引っ越してきて生活を始めたそうです。Aさんが思うに、相続財産の家に他の相続人の了解もなくいくら相続人の一人とはいえ勝手に引っ越してきて生活することはできるのでしょうか?とのことです。

預貯金も、家の売却代金も5人の兄弟で均等に相続する方向でみんな考えていた。つまり、遺産分割協議が成立していたのではないか?とも言っていました。

  1. 預貯金の相続、遺産分割について説明して下さい。

    銀行預貯金は、可分債権ということになります。そして、可分債権については最高裁の判例があり、「相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を承継する」(最判昭和29年4月8日)となっています。この判例は有名で、その後もこの判例に従って処理されております。

    厳密にこの判例に従うと、預金債権は相続開始により法律上当然に分割されてしまいますので、遺産分割の対象財産にはならないということになります。しかし、現実には遺産分割の対象財産に含めている場合も多く見受けられます。

  2. 相続財産の家にいくら長男とはいえ、他の相続人の了解もなしに住みつくことはできのでしょうか?

    相続の開始により、お父さんの家は、相続人間で共有している状態になっています。従って、長男は共有持分権に基づいて使用しているということができます。

    民法上、共有物の管理に関する事項は、持分の過半数で決定されますので、他の共同相続人の同意がない限り、妨害排除や不当利得の問題が生じる可能性があります。

  3. 私たちは一刻も早く長男家族に家から出て行ってもらって、家を売却したいのですが、強制的に出て行ってもらえますか?

    長男さんもこの家に対して共有持分を持っていることになりますので、なかなか難しい問題になります。最高裁の判例がありますので、紹介しておきます。

    共同相続に基づく共有者の一人であって、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといって(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従って、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。(最高裁昭和41年5月19日判決)

    という事は、基本的には多数持分権者によっても妨害排除による建物の明渡し請求はできないことになりますが、“少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならない”ということで、主張、立証があれば求めることが出来ると読み取ることもできますが、現実的にはやはりかなり難しいと思われます。

総括

預貯金の相続については、難しい相続問題に発展する事はあまりないのですが、不動産についてはよく相続に関して問題化してしまいます。

Aさんの場合でも、とりあえずは兄弟で家を売却して売却代金を均等に分けようと合意ができていた、つまり遺産分割の協議が成立していた(換価分割)と考えることもできなくはないと思われます。売却についてそうこうしているうちに長男さんが住み付いてしまった訳ですが、一度住み付くとなかなか相続問題は解決が難しくなります。

相続手続はできるだけ早くに済ませる、問題が生じたら専門家に相談するこの2つの事をおすすめいたします。