相続した債権の回収ができなかったら・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんが事務所に来られて相談を受けました。

Aさんのお兄さんが亡くなられたそうですが、お兄さんには子供はなく、相続人はお兄さんの嫁XさんとAさんだけだそうです。

お二人で、法定相続分通りに相続しようと話はついているそうです。相続財産は自宅の土地家屋、預貯金、貸金債権だそうです。法定相続分はXさん3/4、Aさん1/4という事で、自宅の土地建物と預貯金の半分はXさんが相続、預貯金の半分と貸金債権はAさんが相続することになったそうです。

Aさんの話によりますと、この貸金債権はお兄さんが昔お世話になった人が経営している小さな会社に対する債権らしいのですが、1200万円もの貸金債権を回収できるかどうか疑問だそうです。もしこの貸金債権を回収できなければどうなるのかという相談でした。

  1. もしAさんが貸金債権を回収できなければどうなりますか?
    民法912条に遺産分割によって受けた債権についての担保責任が定められています。

    ① 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
    ② 弁済期に至らない債権及び停止条件付の債権については、各共同相続人は弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

    共同相続人の担保責任とは、相続人間の公平を図る目的であり、債権を回収できるという見込みで遺産分割をするわけですから、債権を回収できない時は他の相続人が負担する事になります。
    つまり、Aさんが相続した貸金債権1200万円はXさんとAさんとで、3対1の割合で会社の資力を担保していることになります。そして、債権の回収ができない時は、AさんはXさんから1200万円の3/4である900万円をもらう事になります。また、一部である400万円だけ回収できれば600万円をXさんに支払ってもらう事になります。このように、支払いがない場合は、Aさん1/4、Xさん3/4を負担することになります。

  2. 貸金等の債権だけにこのような規定があるのですか?
    債権だけでなく、共同相続人間の担保責任として民法911条に定められております。

    各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保責任を負う。


    例えば、共同相続人がA、B、Cだった場合、Aが甲の家、Bが乙の家、Cが丙の家を相続した場合、丙の家だけ雨漏りがしていて使えない状態だった場合、Cだけ不利益を受け、不公平になります。だからその修理についてはA,B,Cの相続分に応じてその担保責任を負うことになります。
  3. 共同相続人間の担保責任の定めはこれだけですか?
    民法913条に資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担が定められております。

    担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれの相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。となっています。

これらの規定は、被相続人が、共同相続人は担保責任を負わないと遺言書を作成しておけば、担保責任を負わないことになります。

担保責任を負わないこととなった場合でも、相続人の遺留分を侵害している場合は遺留分減殺請求をすることができます。

総括

Aさんには各々説明して納得していただきました。結局、Aさんは貸金債権を回収できましたので特にトラブルにはなりませんでしたが、Aさんのように遺産分割して、貸金債権の回収ができなった場合等は、AさんはXさんに多額の請求ができたでしょうか?多額の請求をされたXさんは請求通り支払うでしょうか?

相続財産の中に、貸金債権が含まれていて回収が危ぶまれたり、共同相続人がそれぞれ家屋を相続する場合で、その家屋が非常に古かったりした場合などは、遺産分割をするには特に注意が必要かと思われます。

後々のトラブルの元を作ってしまっているような内容の遺産分割をしている場合も見受けられます。

遺産分割をする場合など、少しでも疑問があれば相続、遺言の専門家にご相談下さい。