相続放棄③3ヶ月が過ぎてしまっていますが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんからご連絡をいただきご自宅を訪問させていただきました。

2年前にAさんのお父さんが亡くなられたそうです。お父さんは、亡くなられる前は岡山市内の施設で生活をされていたそうです。

Aさんとお父さんとはAさんがご結婚を機に大阪に出てきて以来ほとんど会うことも無かったそうです。お父さんが従前住んでいたアパートを引き払って、施設で暮らしていたのも知らなかったそうです。

と言うのも、Aさんはお父さんの事をあまり良く思っておらず、Aさんが幼少の頃のお父さんは、お酒ばかり飲んでいて、会社勤めも長続きせず転職を繰り返し、お母さんとは離婚したそうです。

ですからAさんが23年前結婚を機に大阪に出てきてからはどちらからとも連絡を取ることが無く、ほぼ音信不通となってしまったそうです。

施設の方からお父さんが亡くなられたとの連絡を受け岡山の施設に行ったそうですが、お父さんの遺品は施設にあった身のまわりの品物だけだったそうです。

最近になってAさんのもとに岡山の弁護士事務所から通知がきたそうです。

内容は従前お父さんは友人の事業の為に友人の連帯保証人になられていたそうです。

その友人は事業がうまくいかず自己破産したので、連帯保証人であるAさんに800万円の支払いを請求していたが、亡くなられたので800万円の債務を相続したAさんに支払ってもらうとのことでした。

  1. 連帯保証債務も相続の対象になるのですか?
    保証債務についての相続性については色々と議論があります。
    ・金銭債務の保証債務などの通常の保証債務は相続されるでしょう。
    ・身元保証債務は債務者と保証人との人的信頼関係が基礎となっている場合が多く、特別な事由がない限り、相続されないと思われます。
    ・信用保証債務については、責任の限度額並びに期間にについての定めのない連帯保証債務はその責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり、当事者の人的信頼関係を基礎とするものなので、相続されないと思われます。

本件のAさんの場合、お父さんの生前に保証債務から800万円の金銭債務に代わってしまっていますので、この債務は相続されます。

Aさんはビックリしてどうしていいか解らず相談に来られたのですが、「これは私が相続したのですか?本当に800万円も払わないといけないのですか?こんなお金払えない!」と何度も言われておりました。

そこで、認めてもらえるかどうか解らないですが、相続放棄の申述申立てをする事にしました。

お父さんの子供はAさんのみで、お父さんには兄弟はおらず、祖父母も早くに亡くなっておりますので、Aさんが相続放棄すれば相続人は不存在となります。一刻も早く相続放棄の手続をしましょうということになりました。

  1. 熟慮期間の3ヶ月を過ぎてしまっていますが相続放棄をする事ができますか?
    必ず相続放棄できるとは限りません。
    しかし、これには判例がありまして、“熟慮期間は、原則として、相続人が相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が右各事実を知った場合であっても、右各事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の事情からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。”(最判昭59.4.27)となっております。
    この判決には反対意見もあるようですが、一応この判決通りに実務は処理されているものと思われます。ただ、どのような場合には3ヶ月経過後でも認められて、どのような場合は認められないのかはケース・バイ・ケースのように思われます。

Aさんの相続放棄の経過について詳しく裁判所に説明し、何とか相続放棄の申述を受理してもらいました。その後、債権者へ相続放棄をした旨の通知をした事は言うまでもありません。

総括

熟慮期間である3ヶ月が過ぎてしまっていても相続放棄をできる場合があります。ただ、必ず認められるものではないので注意が必要です。

上記には、少し長くなりましたが、微妙な表現を使っているので判決文の重要な部分をそのまま掲載してあります。

3ヶ月を超えてしまっていても諦めずに一度専門家にご相談下さい。