遺言書をもっているのですが・・・

ご相談内容

大阪在住のAさんから連絡を受け、ご自宅に訪問いたしました。ご相談内容は、遺言書をもっているのですがどうすればいいのですか?との事です。

Aさんは古くからのお友達であるXさんと、よく2人で釣りや食事に出掛けていたそうです。ところがXさんはご病気で、入院生活を余儀なくされてしまったそうです。

それでもAさんは、ひと月に1回~2回程度はお見舞いがてら面会に行き、また面倒をみてきたそうです。

Xさんはずっと独身で、兄弟は妹が1人いるそうですが音信不通だそうです。ですから、Xさんのお見舞いどころか、入院している事すら知らないみたいです。

Xさんは不動産をお持ちで、1つはマンションの1室、もう1つはリゾート地の分譲地でした。Xさんは、自分はもうこの先長くないと思っていたらしく、この2つの不動産をAさんに“あげる”と言ったそうです。

そして、その数日後にXさんは病状が急変して亡くなってしまいましたが、病院に遺言書が残っていたそうです。

  1. Xさんのように不動産をあげた(贈与)後すぐに亡くなったらどうなりますか?
    本来であれば、Aさん受贈者、Xさん贈与者として、AさんとXさんが共同して登記申請をします。しかし、Xさんはすでに亡くなっていますので、Xさんの協力は得られません。このような場合、Xさんの登記申請義務を相続人全員が相続した事になります。つまり、相続登記を経ずXさんの相続人全員とAさんとで登記申請をします。

さて、Aさんが保管しているXさんの遺言書は自筆証書遺言でした。遺言書の内容は、Aさんに次の不動産をあげるでした。自筆証書遺言の要件は満たしています。Xさんが亡くなったという事ですから、すぐに家庭裁判所に検認請求をするように説明いたしました。

  1. 家庭裁判所への検認請求って何ですか?
    遺言書の保管を依頼された者又は遺言書を発見した者は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に検認を請求しなければなりません。この検認とは、遺言書の保存を確実にし、改変を防止する為に行います。ただ、検認を受けたからと言って遺言の有効性が確定するものでもありませんし、逆に受けなかったからと言って無効になるものでもありません。公正証書遺言の場合は検認手続きは必要ありません。

Aさんの場合は贈与を原因としてAさんとXさんの妹が登記申請すれば良かったのですが、Xさん妹さんがAさんへの贈与を疑い、争ってきました。XさんはAさんにあげると言ったのみで、いわゆる書面によらない贈与です。ですから遺言書を書いたのかも知れません。

  1. 書面によらない贈与について教えてください。
    書面によらない贈与はいつでも撤回することができます。但し、履行の終わった部分については撤回できません。贈与も契約ですから、書面化する事が望ましいです。しかし、書面化していないからと言ってその効力を否定される事はありませんが、紛争が起こることがよくあります。

書面によらない贈与でも、履行の終わった部分は取り消すことができません。不動産の場合、登記または引き渡しのいづれかがあれば履行があったと解されるとか、権利証の交付があれば引き渡しがあったものと推定される、という古い判例がありますが、本件では何の履行も終わっていないようです。

しかし、遺言書がありましたので、早急に家庭裁判所に検認請求をいたしました。この遺言書があったことにより、Xさんの妹も納得されて名義変更の手続きに協力して下さいました。

総括

遺言はご自身の最終意思です。そして、遺言書があれば無用な争いを避けることもできます。

また、遺言書があれば、その内容に不満があったとしても、「亡くなったお父さんの考え」や「お母さんはこう思っていたのか」と思えば納得もできるものです。遺言書のもつ秘めた力の大きさをあらためて感じました。